馬場 勉のコラム
『自今生涯』
お四国さん!今昔ものがたり
四国4県に散在する、お大師さん(空海)の88ヶ所霊場を、親しみを込めて俗に“お四国さん”とか“お遍路さん”とか色々の表現で云われている。宗派は関係なく国民的参拝の対象になっている。
私は12年間に3回まわった。4年に1回転という算段である。遍路を始めたきっかけは、亡母が88歳になったときに、突然どういう気持ちの経緯があったのか分からないが、四国88ヶ所に連れて行ってくれと言い出した。私は、それほど信仰心があったわけではなかったが親孝行と思って付き合い始めた。1巡と半分程まわったあたりで母は亡くなったので、後を埋めるつもりで遍路を続けていたら癖になってしまった。
長い間、中断していると何となくまわりたくなるので、高速道路が安いうちにと集中的にまわって、ようやく3回目がほぼ満願した。また、西国33ヶ所を母とお参りしたが、こちらの観音様は立派な大きいお寺さんばかり。33ヶ所は範囲も広く関西圏を中心に散在している。気合が入ってないとなかなか西国33ヶ所全部はまわりきれない気持ちがする。
ところで、10年一昔といいます。四国88ヶ所のお寺さんは、まわり始めたころは、古ぼけたお寺も多かった。トイレも汚かったところが目立っていた。ところが、ここ10年程の間にお四国さんをお参りする人が多くなったため、お金が沢山集まって裕福になったらしく、どこも家の立替やら水洗便所を整備するなど随分様変わりしている。本堂と大師堂がセットになって配置されているところが多いため、久しぶりにまわると全部は以前の姿や寺名を思い出せない。特懲のある寺院は、さすがに覚えているが、寺が建て替えられたり周辺が綺麗に整備され模様替えされてしまったら、思い出せず忘れてしまっている。
遍路の手段も色々だ。歩き遍路、バス、乗用車、自転車など様々。若い人の歩く姿を見るのは珍しくない。男と女の比率は女性の方が多いようだが、はっきりしたことは分からない。年間10万人以上の人がお参りしていることは間違いない。野宿をする人も多いようだ。
信仰心に裏付けされた人が主流だろうが、観光気分の人もいるはず。私は、どちらかといえば、物見遊山的要素の強いお遍路さんかもしれない。納経所があって金300円で印と墨でお寺の名前を納経帳に書き留めて頂くのだが、ありがたいと思えるお寺さんもあるが、反面、流れ作業で仕事と割り切っているお寺もあり、もっと真面目に書いて欲しいと言いたくなるときもある。
ただ、一人で何人分もの納経帳を出す人がいるが、記念や贈答のために書いてもらうのではないから、代理人に書くのを頼むのは本式ではないだろう。また、バスツアーの団体が来たときに、どさっとまとめて納経帳を置かれると、その間待つようになるので困る。
バスツアーでゆくのは、能率的で時間とお金の節約になるが、トコロテン式でゆっくり遍路を楽しむという時間と余裕はないようだ。
私は、1回目のときは時間に追われながら、とにかくまわるということが目的だった。しかし、2回目以降は余裕をもってゆっくりまわるようにしている。そんなに急ぐ必要はないから、自分のペースで自分流で・・・。お参りの作法などには、無頓着です。
高知県の安芸市に「竜馬伝」に出てくる三菱財閥の創始者、岩崎弥太郎の生家がある。びっくりする程の家構えではない。ごく普通の農家の佇まいである。遍路の途中に三回訪れたが、最初の頃は訪れる者も少なく閑散としていた。先日行ったときはテレビの影響だろう、大変な人。整備も行き届き、駐車場も完備されていた。こんな田舎から一代で三菱財閥をつくり名を残した人が出たのだと関心しきりだ。やはり“志”が必要であり、大志を諦めない気持ちが大切だと思った。今からでも遅くないと思っているが・・・。「政商」と言われながらも社会貢献に努めた辺り並の人ではない。
お寺さんも、平地にあるもの、山岳仏教の名残で静寂かつ品格のある高い山の中にあるもの、ケーブルカーの利用や参道をかなり歩かなければならない場合もある。とにかく色々なケースがあるから興味もわく。細い道を登るときには対向車が来ないことを祈る場合もある。カーナビは100%信用しないことだ。役に立つことは間違い無いがとんでもないこともあるから。お寺の宗派は、主に真言宗だが天台宗その他ありで限定していない。
不思議なことに歩く距離に応じて、自然と見ず知らずの人同士で、“こんにちは”と挨拶するようになる。信仰心のなせる業か。四季を通じて山の中のお寺さんは趣きがあって良い。新緑の頃はよろしい。
どういうことか分からないが、遍路をしている時は石段を登ったり長く歩いても腰が痛くならない。普段なら腰が痛くなるのに、ならないのは信仰のおかげかと思う。
ほとんどのお寺さんが、水洗便所になっている。どんな高いところにあってもだ。水洗でないところは、お金がないというより川下に集落があり飲み水などに利用している場合があって、部落民の承諾が得られないということのようである。やむを得ないことだろう。いずれにせよ、お寺さんの環境が段々と良くなってきていることだけは間違いなく、遍路する人が多くなって資金力がついてきたということだろう。10年余りの間に遍路する人が多くなって賑やかになった。ユネスコの世界遺産に申請すると意気込んでいるようだが、その価値はあるように思う。
今は本四架橋の料金が比較的安いが、高くなると観光客やお四国さんが減少するのではないか。土・日・祝日は泊まり客が多いので地域活性化になっているが、平日も安くすればもっと遍路する人が行き易くなり、平均的に人が来るようになれば従業員等の雇用もたやすくなるので良いように思う。色々な政策を考え実施する場合は多面的に考えなければならないという好例である。
お遍路さんは、最高の贅沢をしているといえるだろう。例え、観光目的であってもだ。何となれば、88ヶ所を全部まわればかなりの出費になる。また、歩き遍路の場合は40日程かかる。クルマでも1週間余りかかる。さらに、それだけの時間がつくることのできる家庭とか職場の理解と諸条件の環境がなければ、実現しない“同行二人”の旅だから。
焦らず、ぼつぼつ時間の余裕をつくって少しずつまわればよいと思うようになった。すこし悟りの心境に入ったかな?