馬場 勉コラム
『自今生涯』

第39回

人生の復路は、なぜ早く感じられるのか?

今年は、残り 2 週間弱になった。何かと気ぜわしい時期である。年の瀬になると、耳にすることは、一年が早く感じられるようになったということだ。

早く感じられる理由はいろいろあるようだが、最もわかりやすい説明は、往路と復路があって、未知の世界へ向かって進んでいくときは、まだかまだかと長く感じられる。例えば、登り坂を上るときは、長く感じるものである。峠を越えて下るときは意外と早く行き着くものである。人生という行程においてもいえることで、若いときは、何事も新鮮味があり新規性があるから、かき分けながら進むのだが、ある時を境に、折り返しになり、すでに経験したことを繰り返す場合が多くなるために、つるべ落としのように 早く感じるのだろう。

また、別の見方をすれば楽しいことに集中すれば、時間のたつのが早いが、いやいやながらする場合は長く感じて早く時間がたてばよいのにと思うものである。年配者になれば若い時のようなドキドキ感が鈍くなり一日は長いが全体(1年間)からみれば同じことの繰り返しで早く感じられる。たぶん、そういうことだろうと思う。

要するに、登り坂のように未知の世界を上り続ければ長く感じるはずだ。マラソンにたとえれば、人によって時機は異なるが折り返し地点後の人生の復路は、同じことの繰り返しが多くなり感動や感激などが少なくなって時間の経つのが早く感じられるようになるもののようである。

そうだとすれば、惰性に流されず、新しい事を人生航路に差し挟んで、みずからの生き方に刺激を与えるのが一年を長く感じさせる手段として有効かも知れない。

そこで、趣味など何か仕事以外のものをくみこみつくりだす努力が必要だと思うようになった。

私は、県庁が古文書解読の講座を開くというので応募した。くずし字を読むのは難しいが、一定の法則はあるはずだと思い、そのあたりの呼吸を学びたいと意気込んで参加した。展覧会などで、展示されている古文書をただ眺めるだけでなく、とにかく少しでも読み解くことができれば嬉しいことですから…。

書店でくずし字の辞典を探したら多種多様のものが出版されているのにびっくりした。思うに、こういうくずし字を、一字一字集めてまとめる作業をされる人達の努力には感心する。とても高給になる仕事とは思えない。仕事が好きであり、かつ使命感を以って辞書を編纂しているのだろうと考えた。出版社も長い時間がかかる作業を諦めることなく、著者と付き合うなど大変な苦労であろうと思う。そんなことも考えながら辞書等を探した。

昨今は、本の形態が変ろうとしている時代であるが、どんなに時代が進歩してもやはり紙の文化が無くなることはないだろう。小説などは、電子辞書のような形で電子本として普及されるだろうが、そういう時代の流れに沿わない分野の本もあるから、本が無くなることはないはずだ。

ただ、時代とともに書籍が流動化していくことだけは確かなことのように思う。

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